ひと駅分の彼氏

サラリーマンは少しとまどった表情をこちらへ向けていて、私は慌てて手を引っ込めた。


「ありがとうございます」


丁寧に頭を下げて、真琴が座っていた席に座る。


そして小さく「今日はパジャマなんですね」と、聞いてきた。


私は驚いてサラリーマンを見つめた。


「ごめんね、いつもここに座っている子だよね?」


「え、あ、はい」


見られていたことが恥ずかしくてうつむいてしまう。


その上今日の私はオジャマ姿だ。


隣に真琴がいてくれたときには不思議な力が働いて周囲の人たちはそんなに私に注目していなかったように思う。


けれど真琴が下車してしまい、周囲の視線は私に集まり始めていた。


次の駅で降りて帰らなきゃ。


そう思ったときだった。


わ――!!


車内が突然ざわめいた。