ひと駅分の彼氏

待って、行かないで、私も連れて行ってと叫んで。


だけど今はもうわかっていた。


この駅で降りるのは私じゃない。


真琴1人だけなんだと。


私はこのまま人生という名前の電車に揺られ、そして真琴は途中で下車した。


今頃になってどうして真琴が電車内にでてきてくれたのかわかった気がした。


これは人生そのものの乗り物だったんだ。


途中で乗り込んで来る人。


途中で下車する人。


時々間違えて乗り込んでしまって、次の駅で慌てて下車する人。


私のように、電車内の決まった時間に大切な人と出会う人もいるかもしれない。


私は空席になった隣の席にそっと触れた。


そこはまだくぼみとぬくもりが残っていたけれど、もう二度と真琴が現れることもないのだ。


少しだけ目の奥が熱くなったとき、「ここ、いいですか?」


声をかけられて顔をあげると、サラリーマンが立っていた。