ひと駅分の彼氏

だけど不思議と悲しくない。


握りしめられている両手から、私の悲しみだけが吸い取られているような感覚だ。


私の胸の中はただただ愛おしさで溢れていた。


今目の前にいるこの人のことが大好きだ。


だから、この人が望んだように次の春には笑顔でいられるようになろう。


心からそう思うことができた。


あぁそうか。


神様は私にこのために奇跡をくれたんだ。


真琴の死を受け入れ、乗り越えるためのひと駅分だったんだ。


「……私も愛してる。さようなら」


言葉にすると少しだけ涙が出た。


だけど胸の中は暖かくて、真琴の手が離されたときも笑顔でいることができた。


電車は次の駅で停車して、ドアが開いた。


薄れていく真琴が手を振り、下車する。


いつもの私ならその背中を一生懸命追いかけていた。