「そんなわけで、私も何か東條さんが喜ぶ写真を送りたいんだけど!中々難しいんだよね」


 芹香はヒョイッと清香からスマートフォンを奪い取ると、はにかむように笑った。


「前にお姉ちゃんと行った公園に咲いてた藤の花なんかは、綺麗に撮れてるなーーって思うんだけど。なんか、あんまりしっくりこなくって」

「藤の花!?」


 清香は声を荒げながら険しい表情を浮かべた。芹香は驚いたように身体を強張らせている。


「なっ……なに?お姉ちゃんだって、藤の花、好きだったでしょ?」


 そう言って芹香はスマートフォンに、薄紫色に咲き誇る藤の花を表示した。


(芹香の言う通り、この間までは……好きな花だったけど)


 清香は唇を尖らすと、さっと視線を逸らした。

 東條と出会ってから、清香にとって藤の花は、これまでとは別の意味を持ち始めた。
 千年前。芹香と東條の間に割り込んだ、忌まわしき存在。藤の花はその象徴だった。
 心の片隅に、先日の崇臣の言葉が木霊する。


『藤野よりはマシかもしれん』


 その言葉の意味を、清香はまだ知らない。


(まさか……ね)


 願わくば予想が外れてほしい。そんなことを思いながら、清香は小さくため息を吐いたのだった。