デスクの上にポンと置かれた紙が数枚。
どうやらネットの記事を印刷したものらしい。

「ネット上でも二人の交際が話題になっています。おかげで、うちの広報室も問い合わせの電話が鳴りやみません」
「ふーん」

まるで人ごとみたいに返事をする副社長だけれど、現実はそう落ち着いていられる状況でもない。
私もそれとなくパソコンを開いてみたが、一条コンツェルンと一条創介、白鳥綾香の名前がネット上で飛び交っている。

「綾香さんってそんなに有名人なんですか?」
立ち入るべきではないと知りながら、私は黙っていられなかった。

「あれ、坂本さん知らないの?」
「何を、ですか?」

確かにとっても綺麗な人だし、東京銀行頭取のお嬢さんなら話題性はあるのだろうなとは思う。
それでも、芸能人でもモデルでもないし、一般人に変わりはないはず。
その綾香さんの話題がなぜこんなに取り上げられるかがわからない。

「綾香さんはネット上でかなりの有名人だよ。コスメやファッションを発信したり、グルメサイトを作ってお店を紹介したりと、企業と連携もして手広くやっているはずだ」
「へー、そうなんですか」

そう言われて検索をすると、ものすごい数のアクセスを誇るサイトがいくつもあった。
グルメやファッションから、お嬢様の日常生活まで。
これが全部綾香さんのものなのだろうか疑いたくなるほどの数だ。

「それで本題に話を戻すと、どうやら綾香さん側が副社長との交際をネット上で暴露してしまったようです」

ええー、それは酷い。
それまで遠巻きに様子を見ていた私は、気が付いたら副社長のデスクまで歩み寄っていた。