バルビリャン公爵家には跡取り息子の他に、二人の娘がいた。

 一人目の娘、長女イザベルは才色兼備という言葉がピッタリなとても美しく優秀な女性だった。

 プラチナシルバーのロングヘアーに宝石のような青い瞳、スラリとした長身に、理知的な顔だち。
 三才の頃には三ヶ国語を流暢(りゅうちょう)に話せるようになった上、五歳の頃には辞典を含めたあらゆる本を読み漁り、その知識量は学者にも劣らないと謳われたほどである。

 この子は人の上に立つべくして生まれてきた女性だ! ――――そんなふうに考えた公爵は、彼女を王太子妃にすべく、手塩にかけて育て上げた。
 その甲斐あって、イザベルが15歳のときに王太子との婚約が内定。18歳のときに国民の祝福を受けながら結婚をした。


 対する二人目の娘、次女のイネスは、姉に比べて数段劣る『落ちこぼれ』として認識されていた。

 ふわふわのくせ毛は、色合いこそ姉とよく似ているというのにどこか幼く見える上、結い上げたところで野暮ったく見えてしまう。
 目の色だってイザベルと全く同じなのだが、その丸く大きな瞳からは知性を感じられないと不評だし、身長だって低く華やかさに欠けると言われている。

 それに加えて、彼女には天才と称される姉と並び立てるほどの知識はなく、しょっちゅう比較をされ、貶される日々を送っていた。