さくらは、洗面所の鏡の前に立つと、パジャマの一番上のボタンを外し、襟元をくいっと下へずらした。
鏡には、昨晩、真一がさくらの左鎖骨下につけたキスマークが、ほんのり赤く残っている姿が映った。
ふいに、横から、
「あら、虫刺され?」
と、母が言った。
「うわっ!」
さくらは、驚き声を出した。
「やっぱり、虫がいたのね。けっこう騒いでたもんね、昨日。テーブルの上に虫刺されの
薬出しとくわ。あとで塗っときなさい。」
「あっ、うん。わかった。」
さくらは、どぎまぎしながら返事をした。
確かに、昨晩、黒い煙が部屋に出て大騒ぎした。それを虫と勘違いしてくれて好都合だ。
自分しかいない部屋で、まさかキスマークとは思わないだろう。本当に助かった。
朝昼兼用のごはんを食べ終えると、身支度を整えに自分の部屋へ向かった。
さくらはドアの前まで来ると、立ち止まった。
『真一がいるかもしれない。』
さくらは軽く一回深呼吸をしてから、ドアを開けた。
だが、部屋に入ると、もうそこに、真一の姿はなかった。
さくらは少し残念な気持ちになったが、そんなわけない!と自分に言い聞かせ、
私服に着替えた。
その後、さくらは、母の運転で病院に向かった。
