「乾杯」


拓斗は何も持っていない手でジョッキを持つフリをして、乾杯の仕草をする。


まったく、もう。ごっこ遊びに付き合うことになるなんて。


私も軽くコップを持ち上げて乾杯のマネをして、オレンジジュースをひとくち飲む。


「さゆきちゃん」

「ひゃい!?」


突然名前を呼ばれて、心臓が飛び跳ねた。


拓斗からそんな風に『さゆきちゃん』なんて名前を呼ばれたの、初めてだったから。


「さゆきちゃんが飲んでるカクテル美味しそうだね、一口ちょうだい」


そう言って拓斗は私からオレンジジュースの入ったコップをヒョイと取りあげると、口をつけて飲んだ。


拓斗の喉仏がゴクリと動くのを見てしまい、思わずバッと視線を逸らす。


な、なんで私、喉仏を見ただけで色気を感じてドキッとしちゃったんだろう。


実は私、喉仏フェチだったとか??