町内会のお祭りは、まだ明るさの残る夕暮れ時から始まります。
空き地の真ん中に立った赤と白のやぐら。
そのまわりをぐるりと囲むように屋台が並び、
ちょうちんの明かりが夏風に揺れています。
盆踊りの太鼓、射的の銃声、誰かの笑い声ーー。
全部の音が混ざり合って、空気が震えているようです。
その一つ一つが、すずめちゃんの胸を高鳴らせるのでした。
人だかりの中で、すずめちゃんはふと誰かからの視線を感じ取ります。
屋台の明かりに照らされて、
離れたところからこちらをじっと見ている男の子が一人。
ーー真緒くんでした。
名前を呼ばれたわけでも、
手を振られたわけでもないけれど、
目が合っただけですずめちゃんは、
打ち上げ花火のようにぱっと笑顔になりました。
はっきりとはわからないけれど、
真緒くんもどこか嬉しそうな表情を浮かべているように見えます。
「せんせ、真緒くんいる!」
「まお……?ああ、深川真緒くん?
……んん、どこ?」
先生はなかなか見つけられないようでしたが
すずめちゃんには、
真緒くんにだけスポットライトが当たっているように見えていました。
すずめちゃんは先生の手を引いて
人波をすり抜けるように
真緒くんのもとへと駆け出しました。
近づいてくるすずめちゃんに向かって
真緒くんがふわっと笑いかけます。
「真緒くん!」
