ここを開いてから、沢山の人がありがとう、ありがとうと言って帰って行く。

隣の家さえあんなに遠いのに、私たちの働きは段々と広まっていって、遠くからでもわざわざ来てくれるようになったのだ。


体調のことだけじゃなく、今みたいに相談や悩み事を一緒に考えたり。

こうやって皆で知恵を寄せ合って毎日を全力で生きている。

一日一日、いっぱい働いて、...畑仕事だけじゃない、服を縫って、ご飯を作って、壊れたものを自分たちで直して。

今日も生きた、と言う証を残して、生きている。



それなのになんだ、私は。


チーズの作り方すら知らないまま、貴族は豪勢な、立派な家に守られて暮らしている。

医者も、行くんじゃなく来てくれたし、それが当然だとも思っていた。


ついこの間まで、さっきまで知らなかった。

冬支度も、チーズ不足も、治療院も。


──自分が無知ということさえも。

何もかも、ぜんぶぜんぶ...知らなかった。


おじさんが言ってたのは、アヴィヌラの貴族じゃなくフェランドールのことだろうけど。

でも国は違えど、封建制は変わらないから。

自分でできることも誰かにやらせて、何も考えず住み慣れた屋敷で一生を終えて、それが当然の権利だと。


ただ、身分が高い家に生まれただけで。

運が良かっただけだ。

私も運が良かったから、広いお家とたくさんのご飯と高価な本をなんの感謝もなく享受して。

だから私は勉強することが出来たのだ。