自分から話しかけておいて、彼の言葉に少し胸がチクリと痛んだ感覚には気づかないふり。
勝手に期待して、一人で落ち込むのは情けないもの...
窓の外に目をやれば、もう王都の街は靄で霞んで見えなくなっていた。
馬が少々勢いをつけて登っていくなだらかな斜面は、通ってみれば馬車の車輪が時々閊えるほどの粗悪な道。
───こんな道路を、こうやって車輪が跳ねて揺れる感覚を、私は...どこかで。
「──昔一度だけ、王都から出たことがあるの。こういう山道でね、すごく揺れたのを覚えてる。どこへ行ったかは忘れちゃったんだけど、父と二人で」
「...───もしかして、...山道だったか?...夜明け前、森を抜けた先の開けた....」
何気なく話しただけなのに、一瞬間をおいて、本へ落としていた深緑を上げゆっくりと瞬いた。
生まれたしばらくの静けさから、喉から絞り出すように私に問うたイヴァン。
「え...?そんなに詳しく、覚えてないわ。...どうかしたの?」
「いや、...なにもない、」
なにかを考え込み、そしてはっと口を噤んだ彼に。
何かあると確信した。
この人は苦しめられている。
思い違いかもしれないけど、見えたのは焦り、辛酸
。
それでも、誰に何をどうすべきか、してあげたいのか
...ううん、私がしたいのだ。
私だけが、したいのだ......
相手のことなど思いやらずに考えている。
───暴かせようとしてるのか、私は...無理矢理にでも。
触れてはいけないのかもしれない、彼のために。
さらに苦しめてはしまうのではないか。
それさえ私にはわからなかった。
でも、でも。
何かに苦しめられているこの男を、どうしても放っておくことができなかった。