「すごい!印刷機ってこんな仕組みだったの?知らなかったわ!じゃ、この分厚い何かに文字を書けば、そこだけ浮き出てインクが付くのね!ねぇねぇおじいちゃん、分厚いこれには何で彫っていくの?軽い力で出来る?」

「もちろんさ、これで彫る。ペンで書くような軽さが売りなんじゃ。それに何度も使える、まだ試作品じゃがの。2台目ができそうなんだ。持って行くかい?」

「まぁ、本当ですか?これで問診表が作れたら素敵だな。...でもすごく手が込んでいて、私じゃ到底買えなそうだから、大丈夫、...」

「...そうかい?お嬢ちゃんなら大事に使ってくれそうじゃから、安くしたげるよ」


「ありがとう、おじいちゃん。でも...大丈夫、お金、貯めてるから。いつか、必要になった時、必ず買いに来るから、」

「おうおう、よく出来た娘じゃの」

「ふふ、ありがとう、お暇します」


おじいさんの優しさに固い決意を絆されそうになったけど、踏ん張った。

できるだけ少ないもので暮らしていくんだもの。

あんなに素敵な機械に出会えたことだけで満足よ、大丈夫。


「ごめん、お待たせ。行きましょう」

店の前で待っていたイヴァンに声をかけると、ちらりと私を伺い見た。


「...良いのか?買わないで」

「え?......もっと大きな目標があるから、それで、」

「...お金とか、目標とか。...なかったとしたら、お前は欲しいか?」

「......欲しくないわけ、ない...」


情けない声で考えるよりも先にぽろっと、零れてしまった。

あとになって思えばあれは一目惚れだった。

木組みの台に薄い紙を貼った初めて見る機械に。