馬車が速度を落とす。

「着いたみたい!」


カーテンをそっとめくり窓の外を覗けば、もう人通りの多い道にいるようだった。

この目立つ白金の髪を隠すため、焦げ茶色の大きな布をすっぽりと被る。


賑やかな王都にわああと口角が上がる私の横を、黒いコートがするりと抜き馬車から降りた。

私も!と急いで飛び降り、辺りを見回した。


──王都だ。

アヴィヌラとはまた違う空気だけど、冬が近づいて空気は冷たく始めているけど、大きな街の匂いがする。

笑い声と、硬い靴の足音と滲み出した欲とが溶け合ってできる喧騒。
寒くてもなお忙しく行き交う馬車。

久しぶりの沢山の人間に、懐かしさを覚える。


厚手のマントを羽織ったイヴァンは行者に代金を支払ってから私に向き直ってこう言った。


「いいか、行きたいとこがあったらどこでも連れてってやる。何かあれば守ってやる。だが絶対はぐれるなよ。いいな、その先は知らねえぞ」

「うん、わかった」


それから通りがかったお店で筆記用具を買って、無事に本も受け取れた。

「うわあ、これでもっと上達してみせる!それでお金もきっと返すわ、本当に嬉しい。ありがとう」


辞書独特のインクの匂い。

すうっと大きく吸うと、侯爵家の書庫を思い出した。


そしてそして。