都会に、ぐんぐんと近づいてゆく。
それを五感で感じとり、私の高揚ボルテージは最高潮に近づいていく。
雲を黒く染める汽車の煙。
それがふっと消えるところ、あのドーム状の建物はきっと駅舎だ。
大聖堂特有の何本もの高い塔。
街のどこからでも見えるだろう、大きな時計台。
自然と、こっそり学校を抜け出して通った故郷のあの闇市の喧騒が思い浮かぶ。
懐かしくも、戻りたくはない母国を思いながら向かいを見やれば。
あ、こいつ。
また薬草の本を読んでいる。
今はエアー調合付きだ。
すりつぶして、何かを加えて、混ぜて、濾して。
長い手がくるくると動く。
本を読むのはともかく、手を動かしてるのはきっと。
馬車なんか乗らずにいつもの木屋に引きこもっていたかったという希望も含まれているのだろう。
滑らかな長い指に、1つだけ指輪が嵌められている。


