その8
麻衣



ははは…、終わったわ…

でも…

脱力感のせいなのか、すぐに立つ気力が出ないや

まだ土下座の姿勢のままでいた私には、3人の幹部の視線が集中しているようだ

私は地面と睨めっこ状態で、3人を見ていないのだが、その視線はヒシヒシと感した

なんか…、ぐったりと固まっている私の体を、突き抜けるような感覚だったわ


...



そこへ、荒子総長の声が私に届いた

「本郷…、もういいよ。その格好はさ」

私は二呼吸ほど間をあけて、そのままの”成り”で答えた

「今…、立ちあがりますので…」

そうは言ったが、私は顔面の痛みと、”屈辱らしき”モノを受けてのショック症状を起こしたのか、立とうとしても体がいうことをきかない

「荒子…」

しばらくの沈黙の後、矢吹先輩と思われる声が低く響いた

そして3人のうちの誰かが、私に向って歩いてくる様子だ

「本郷、大丈夫か?肩を貸そう」

地べたを見つめ続けていた私の視界に、リーガルのシューズが入ってきた

声からして荒子総長だ

へへ、リーガル履いてるんだ、総長さんは…

両手を地面に着いてる体勢で、私の頭には呑気にそんなことが浮かんだ


...



「ご厚意、ありがたいんですが、人の肩を借りて起き上がるなんてマネ、死んでもできません…、私には。すいませんが、もうしばらく待っててください…」

私はふらつきながらも、やっとこさで立ちあがったぞ

はは…、私の正面、狂犬娘がどアップじゃん

なんか背格好とか、ほとんど一緒だわ、この人と私

まあ、狂犬同士だし…、いずれ喰い殺し合いを演じる運命は避けられないんだ、私ら二人は

いや二匹か…

ボディーサイズなんかは、できればタメがベターというもんだわね(苦笑)

「本郷、今日はこれで終いにしよう。だが、勘違いするな。今度トラブルとなったら、即、クビを切る。執行猶予だと思ってろ。いいな?」

「はい…」

「よし、次の幹部会で詳細だ。その間、絶対、騒ぎを起こすなよ。メンバー全員にしっかり伝達してな。全責任はお前だからな!」

「はい」

私は一礼して、テントを出た


...


テントから一歩外へ出たところで、ドッグスメンバー九人がどっと駆け寄ってきたわ

「麻衣ー!!」

「麻衣さん、大丈夫ですか!」

「おい!冷やしたタオル、早く持って来いよ」

あらら…、みんな優しいじゃん

ひゃー、冷たいタオル…

こりゃいいわ、助かるよ

どうやら、ドッグスの連中、私が土下座したことは承知のようだ

総長の鉄拳浴びてジャガイモみたいなツラ晒してるけど、みんな、決して眼を背けていない

へへへ…、痛い思いしただけの甲斐はあったかな…

今日の総集会は予想以上にしんどかったが…

うん…、敵も味方も、私の中にオールオンできた

さあ…、そうとなれば、”今日”はまだこれからだ

急がばドントストップだっての!