「あなたが嫌われているかは、正直わからない。……私は、確実に嫌われているだろうけど。送ってくれてありがとう。また明日ね」

そう言い、私は車から降りる。車がゆっくり走り去るのを見届けてから、二十七年暮らしている家のドアを開ける。

「ただいま」

リビングに入ると、皿洗いを済ませた母が手を拭きながら「おかえり」と笑う。だが、ソファに座ったままの父は、新聞からチラリと顔を上げた後、「風呂入ってくる」と言いリビングを出て行く。父とは、一度も目さえ合わなかった。

私は父に嫌われている。それはただ血が繋がっていないから、というわけではない。私のせいで、父の大切な人が壊れてしまったからだ。

父は、今で言うシスコンというやつだった。父が六歳の頃に母親ーーー私にとっては祖母を事故で亡くし、五歳離れた姉が父の面倒を積極的に見るようになり、父は姉にベッタリだったようだ。

父が母と高校生の頃、付き合うようになってからも父は姉にベッタリで、姉と父と母という三人でデートをすることも少なくなかったそうだ。