私、松原(まつばら)こころは父に嫌われている。父親と言っても、私と両親の間に直接的な血の繋がりはないけど……。

「いよいよ明日だね、緊張するな〜」

静かな夜、婚約者が車を運転しながら言う。その横顔はいつも通り優しいものだったが、どこか強張っていた。

「そうだね、いよいよだね……」

彼の緊張が伝わってきたみたいだ。明日は私と彼の結婚式。式場、披露宴会場、料理、ドレスなど二人で話し合って決めてきた一大イベントだ。友達や職場の人、色んな人を招待して祝福されるなんて、どこかくすぐったい。

「ねえ……」

彼がそう言った刹那、車が止まる。もう家の前に着いていた。彼は私をジッと見つめている。その顔は、緊張だけでなく不安にも染まっていた。

「俺、お義父さんに嫌われてないかな?」

私の頭に父の顔が浮かぶ。いつも気難しそうな顔をしていて、家族よりも仕事が大事な人だ。父のことを考えると、結婚式や新生活への喜びが薄くなってしまう。気が付けば、私の視線は足元に移っていた。