「ますます規格外だな、生まれ変わりってのは」
先輩は納得されたようだが、一般人の私はまたもや話に置いていかれた。
イカネさんと一緒にいるのに大量の霊力が必要で、それによって風邪が悪化する。
………ありえないわ。
今だって、一人でいるより元気なのに。
「ヨモギ」
「うん」
ヨモギ君が私に両手を向ける。
しばらくすると、身体がぽかぽかしてきた。
「格が上がったおかげで、舐めなくても治癒の力が使えるようになったらしい」
熱感が引いてから、体の調子を確認する。
頭痛もおさまり、寒気もない、健康そのものだ。
怪我だけでなく、病気も治せるとは、驚きだ。
「ありがとう」
「ご主人様の頼みだから仕方なくだよ」
「わざわざ来てやった俺様の慈悲に感謝しろ」
「かんしゃしろ」
先輩の俺様っぷりも、隣のケモ耳美少年のおかげで緩和される。
ヨモギ君は先輩に頭を撫でられて、ご機嫌に尻尾を揺らした。
「今日はどちらにしろ稽古場は使えなかったんだ。ゆっくり休め。明日から修行再開するからな」
「………はーい」
「ったく、なんで風邪なんてひいたんだ」
「………なぜでしょう」
「……おい、なんだその微妙な間は」
「気のせいではないですか?」
「心当たりがあるんだな。言ってみろ」
「えー………」
「俺に言えないことか?」
「いいえ………、今までの訓練の疲れがでたのかなー………と。ほら、付き合ってくれる先輩に失礼でしょ?」
我ながら、わかりやすい誤魔化し方をしてしまった。
すこし早口になってしまい、聞かれてもいない理由をつける。
嘘ではないが嘘っぽい。
そこを見逃してくれる火宮桜陰ではなかった。
「ほぅ………。つまり、俺に隠れて訓練していたと?」
「なんでっ、そんなの一言も言ってない……」
「俺に隠れて訓練してたんだな」
「いや、しようと思ったけど、できなかったから、何も起こらなかったから」
あ、口が滑った。
「問答無用。そこに正座しろ」
「はいっ!」
それから、火宮桜陰の説教が始まった。
なにも、私が憎くて怒っているわけではないのだと。
結界外での術使用に対する危険性、暴走の可能性、果ては私の体調の心配が混じっていて、申し訳なさが込み上げてくる。
幸いなことに、家族が帰ってきたのは深夜。
火宮桜陰と家族が鉢合わせることはなかった。


