2.恋心は自覚したと同時に終わる。
「お邪魔します」
そう言ってドアの陰から顔をのぞかせた。中にいたのは、男の子一人、女の子四人。その中に東雲さんもいる。
「お。いらっしゃい。入部してくれる気になったの?」
「うん、考えたんだけど、他の人の意見とか参考にできればいいなって思って」
「そっかそっか! それならよかった! おーい部長―」
彼女は相変わらずびっくりするくらいテンションが高くて、いつもその事に面食らってしまう。きっと彼女は落ち込んでも一度寝たらあっさり忘れてしまうようなタイプなんだろうなと勝手に納得してしまった。
小さいころの友達も、こういうタイプの人間はいて、そうだった。いつも元気でニコニコしていて悩みなんてない。でも何故だろう。彼女には言葉では言い表せない違和感というものがあった。その違和感に今は気づけないでいた。
「どうしたの」
「この人、今年からの新しい入部希望者だって」
「あ、そうなんだ」
そう言って部長と言われた彼女はこちらを見たと同時に長い髪も揺れて良い匂いの香水の匂いが鼻をかすめた。彼女は長いまつ毛にぱっちりとした二重瞳、入念に手入れされていたロングヘアーにそれに負けないくらいの美人さんで大人のお姉さんって感じがして話すのを緊張してしまう。
「いらっしゃい、美術部へ。私は部長の神崎理沙(かんざきりさ)よ。といっても見ての通り、ここは女子が多くて窮屈だと思うけど、早く馴染めるようになって欲しいから、何かあったら遠慮なく言ってね」
そう言ってニコッと笑いかけた。そして彼女は皆の前に行くとパンパンと二回手を叩いて注目させた。それを聞いて女子達はみんな作業をやめて部長を見たが、一方で唯一の男の子は見向きすらせずにタブレットに何かを描くのに夢中になっていた。
「はい。みんな。今日から入部してきたえっと名前は?」
「葉山蒼です。よろしくお願いします」
すると、みんな次々によろしくと言ってきたが、ちらっと見たらやっぱり男の子は、見向きすらせずにひたすら何かを書いていた。その様子に気づいた部長は申し訳なさそうに言った。
「ああ、ごめんね。気にしないで。あの子は別に無視をしているとかじゃなくていつもああなの。集中モードに入ったら周りの声とか一切聞こえなくなるんだ。まあそのうち喋るようになると思うからそれまでほっといてあげて」
「――分かりました」
いわゆる集中すると周りが一切見えなくなるタイプってやつだろうか。この部活の唯一の男の子だし、仲良くなっておきたいっていう気持ちはあったけど、そういうのなら仕方がない。
「というわけで、最初のうちは道具の場所とか分からないだろうから、困っていたらみんな教えてあげてね」
『はーい』
「以上、連絡おしまい。活動再開していいよ」
そういうとみんなそれぞれ自分の書いていた作業に戻っていく。人によってキャンバスに立てかけて絵を描いている人や、タブレットを持ってきて描いている人がいる。
タブレットの使用許可書と、授業中などに使用しなければタブレットを持ち込んで、部活中に使ってもいいらしい。俺も漫画を描こうと鞄を開けた。
しまった。そういえば、最近漫画を家でしか書かなかったから、道具を一式家に置いていってしまった。
だからといって、俺は普段漫画しか描かない人だから、他のもので絵を描く気にもならないし、今日は仕方がないから見学することにして、部長に話しかけた。