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 私は彼に背中を押されてクラスを飛び出した。

「いってらっしゃい」

 そう言って笑う彼はきっと不本意だったと思う。だけど彼は笑顔で見送ってくれた。それなら、私はきっとその好意に甘えるべきなんだと。

 スカートを翻して人混みをかき分けて必死に走る。人に時々ぶつかるけど今はそれを気にしている余裕なんて無かった。そして、人混みを抜けた所で大好きな彼の背中を目で捉えた。
「美幸君!!」

 大好きな彼の姿を間違えるはずがない。私はその大好きな彼の背中に飛び込んだ。

「わわ」

 彼はびっくりしてこちらを振り向く。私の頭は彼の大きな背中にうずめられた。

「びっくりした。真里か。まさか追ってくるとは思わなかった」
「さっきうちのクラスに来たよね?」
「うん。いったよ。でも忙しそうだから邪魔したら悪いかなって思って」

 そう言ってフッと笑った彼は、私から離れて上から下まで見渡した。

「来てくれてありがとう。そのドレス凄く似合ってるね。綺麗だよ」

 その時、少し照れながら言った蒼君の似合っているという言葉と重なった。

「どうしたの?」
「ううん。なんでもないよ。行こう」

 どうして、今一瞬彼の姿とダブって見えたんだろう。そんなもやもやをかき消すように私たちは文化祭を歩いて回った。

「ここのお化け屋敷めちゃくちゃ怖くて人気があるんだよ」
「そうなんだ」
「怖かったら俺の陰に隠れてもいいからね」
「うん。ありがとう」

 そういえば、蒼君と回るって言ったとき、どこに行きたいって言われてお化け屋敷って答えたなあ。彼、思っていることが顔に出やすいタイプだから凄く嫌そうにしてて断られると思ったけどお化け屋敷ね。分かったと同意してくれてなあ。

 今頃彼は何をしているだろうか。激務に追われているのかな。私が抜けちゃったけど、私がいなくても大丈夫なのかな。そういえば今日も凄く顔が無理をしていたな。どうしてこんなに彼の事を考えてしまうんだろう。

「そろそろ入れると思うよ。心の準備は大丈夫?」
「うん。大丈夫だよ」