彼女の愛しの彼
「えーなかなかいい感じじゃん」
紗英はニコニコとして俺の話を聞いた後にそんな台詞を吐いた。昨日の事を早く話したくて、今日はいつもより早く起きてしまった。
「まさか、そんな早くデートに誘うなんて思っていなかったからびっくりしちゃった」
「デートなんかじゃないよ。デートなんかじゃない」
俺は嚙み締めるように二回言った。
多分あっちはそんな風には思っていない。男女が二人きりで遊んだ。といえば聞こえはいいけど、所詮は彼女の気持ちを逸らすために少し出かけただけだ。きっとあっちは俺の事をなんとも思っていない。
「でも、一緒に帰ったというのは大きい進歩だと思うよ。その調子でじっくり距離を縮めていこう?」
「そうだね。まあそれしかないだろうしね。そうすることにするよ」
そう言うと横からのんびりと「そうしなー」という声が聞こえてきた。
気が付いたらもう梅雨が明けていて夏真っ盛りって感じだ。きっと夏休みが近づいてきて浮かれず時期だろうけど、俺は夏休みが楽しみじゃない。だって夏休みが来てしまったらしばらく真里さんの顔を見る事が出来なくなってしまうのだから。
そう思って空を仰いでいると背中をどんと叩かれた。
「何寂しそうな顔で空を見上げているの? 遅刻しちゃうよ」
そこには笑顔の紗英の姿があった。彼女はそう言うと唐突に走り出した。それは俺の寂しさを吹き飛ばしてくれるような笑顔だった。だから、そんな彼女に元気づけられて俺もそうだなと言って後を追いかけた。
放課後、その日の授業と美術部の活動が終わって一人で校舎へと向かった。まだ空は明るくて水色の空に、白色と浮かんでいる。