「おっはよう」
「おはよう。お前は朝から元気だな」
「そういう優香は眠そうだね。何かしていたの?」
「昨日は新しいゲームの発売だったからな。買ってきて夢中になってたら朝方だ。ふぁあ」
 そう言うと、本当に眠そうに大あくびををする。その大きなあくびがまるでカバみたいで思わず笑ってしまう。

「それにしても、もうすぐ夏休みだなー」
「そうだなーってことは期末も近づいているってことだけど、ちゃんと蒼は勉強しているのか?」
「してないしてない。俺も家に帰ったらゲームばっかりで、勉強なんかしていないよ」
「それは、胸を張って言う事なのか?」

 そんなこと言ったって仕方がない。家に帰ると本とか、ゲームとかベットとか誘惑するものが多すぎるのだ。

「ってわけで、テスト期間になったら、ノートとかよろしくな?」
「無理無理、お前も知ってるだろ。俺も頭は良くないし、授業なんてほとんど聞いてないよ」
「救いようないなぁ」
「お前が言うな」

 ぴしっと空中で二本指で突っ込みを入れる優香。彼は、元々関西出身らしく、いつも気持ちのよい突っ込みを入れてくれる。そんな話をしていたら、紗英から連絡が来た。本当なら、学校では携帯を使ってはいけないという決まりがあるのだが、朝早くに先生が来ることなんて早々ないから予鈴が鳴るまでみんな携帯を使っている。

『真里ちゃんの事をそろそろデートに誘えた??』

 頬を赤らめてニコニコ笑っている絵文字と共にメッセージが送られてきていた。

 彼女をデートに誘うことは出来ていない。なんて誘えばいいのか分からないし、理由もないのに誘ったら変に思われそうで、誘う事が出来ていない。

 でも、本当は違う。こうして言い訳をしているだけで本当はただただ、誘う勇気がないだけなのだ。

「おーおーどうした。愛しの紗英さんから何か来たのか?」
「愛しのって、紗英はただの幼馴染だよ」

 優香は割とお調子者で、すぐ紗英との関係をからかってくる。紗英には彼氏がいるのを知っているだろうに。

「そういうお前はどうなんだよ。好きな人とかいるの?」
「ん? 俺? 朝っぱらから恋話しちゃう?」
「あーやっぱその顔がうるさいからやめとくわ。またの機会にお願いします」

 にやにやとしている彼の顔を見ていたら、聞く気が失せた。

「顔がうるさいってなんだよ!! まあ、俺の話はまた今度してやるよ」
「ん。たのんだ。ところで一時間目は何?」
「一時間目は古典だけど」
「あーそっか。いたた。なんか急にお腹痛くなってきたな」
「お前、それただ単に古典がめんどくさいだけだろ」
「お腹痛くて授業受けられる気しないなー」

 俺がバレバレの安っぽい演技をすると深くため息をついて優香は言う。

「分かった分かった。先生には体調不良で保険室にいるって言っておくよ」
「サンキュー! 流石優香。話が分かる男は違うね」