「ファーンファーンファーン」

 携帯のサイレンの音と共に目が覚める。ベットから出ると鳴っている携帯の音を止めた。するとノックもせずに妹の莉愛(りあ)が遠慮なく部屋に入ってくる。

「ねえ、お兄ちゃん。いい加減そのサイレンやめてくれない。普通に二階まで響いてうるさいし、何かあったのかと思って怖いんだけど」
「別にいいじゃん。毎日の事なんだし慣れてよ。それに俺これじゃないと、起きれないんだよ」

 妹の部屋は、俺の真上の二階にある。他にも部屋はあるけど、両親の寝室と、物を置く倉庫に使われているから、開いている部屋が二階はそこしかなかった。
 妹だって、馬鹿うるさい大きな音で、流行りの歌い手の曲をアラームにしてるんだから、人の事なんて言えないじゃんなんては間違えても言えない。この家族では兄より妹の方が上なのだ。

「とにかくなんでもいいからサイレン音だけは止めてよね。私の快適な睡眠を邪魔しないで」
「はいはい分かったよ」

 また随分と勝手な言い草だが、ここで逆らうとまた面倒臭いことになりそうなので上辺だけの返事をしておくことにした。

 まあ別にアラーム音は変えるつもりはないけど。

 俺は急いで着替えをして通学用鞄を持つと、リビングへ向かった。

「おはよう、母さん」
「おはよう。蒼。朝ご飯出来てるわよ」

 母さんは、仕事をしていて朝は忙しいのに、こうして毎日朝ご飯を作ってくれる。それはとてもありがたいことで感謝しかない。

「蒼、いただきますは言ったのか」

 ニュースを見ていた父親に視線をやると、低い声でこちらを見ていた。眉間をしわを寄せて厳しい顔つきをしており、その視線に見つめられたら逸らすことすら出来ないくらいの威圧感がある。

「いいじゃん、いただきますぐらい」
「ダメだ。母さんが忙しいのに毎朝ご飯を作ってくれているんだ。それに食物は命を犠牲に作られているものがほとんどだ。だからいただきますは大事なことで、絶対に言わないといけないことなんだ」
「分かった。ごめんなさい。いただきます」

 結局、その威圧感に負けて小さい声で謝った。それを聞くと満足したのか、再びテレビに目を向けた。後から妹も音楽を聴きながらやってくるが、その事に対しては何も文句を言わない。俺が動画を見ながら食べてると怒るくせに。

 うちの父親は典型的な、昭和脳ってやつだと思う。体調不良は根性で直せっていうし、痛いのも男なら我慢して当然だと言う。小さい頃はよくしつけで頭を殴られていた。

 それは悪いことをした俺も当然悪いんだけど、別に殴らなくても良かったんじゃないかと思っている。別に殴られても叱られたらちゃんと反省はするし、考えもする。なのに手をあげるのはやりすぎなんじゃないかとは今でも思っていることだ。

 誰も喋らない食事が続く。すると、父さんは急にあーと思い出したように言ってきた。

「そういえば、今日からお前達は新学期だな。莉愛は、今年受験だが大丈夫そうか」
「あーうん。まあ大丈夫だと思うよ。ちゃんと勉強しているし、高校もある程度余裕のあるところに行くから、模試判定もAだったし、多分問題なく行けると思う」
「そうか、まあお前なら大丈夫だと思うが油断するなよ」
「はーい」

 満足し頷くとまた険しい顔でこっちを見る。

「それで蒼は、二年目だけど大丈夫なのか。お前が一番危ないんだぞ」
「――大丈夫だよ」

 なんだよその言い方。まるで俺の事は信用していないみたいに言って。確かに俺は莉愛ほど優秀では無い。でも、これでも一生懸命やっているつもりだ。なのにそんな言い方しなくてもいいじゃないか。

「二年目は一番気が緩む年だからな。しっかり気を引き締めて、勉強をするんだぞ」
「……はい」

 口を開けば勉強勉強って、それしかいう事はないのだろうか。父さんは二つ下の妹、莉愛の事を猫可愛がりしている。頭もいいし、運動もできるし、末っ子だから要領も良くて、上手く親に甘える手段を知っている。だから父さんもそんな莉愛が可愛いくて、仕方がないのかもしれない。

「はあ、食欲ないからもういいや。行ってきます」
「おい、残すともったいないぞ!」