そこには……なんの変哲もない生徒手帳がひとつ。
わたしはいつもポケットに入れていて、気づかぬうちに落としてしまっていたらしい。
なるほど、それでわたしの名前がわかったのか。
落としものを拾って、わざわざ届けに来てくれるなんて、やっぱり彼は優しい。
彼と話せたから……、落としものがキューピッドかもしれない。
さらにキュンとしながら、はたと考える。
……まって。
まったく良くない……!!
事態の大きさに気づき、顔がみるみる青ざめていくのが自分でもわかる。
これはまずい。かなりまずい。
わたしの生徒手帳は……、目の前にいる彼にだけは、ぜったいに見られてはいけないのに……!
「あ、あのっ」
震える声で呼びかける。
すべてに気づいたわたしに、なぜか彼は嬉しそうに意地悪く口角を上げる。



