ドキドキと高鳴る鼓動に侵食されつつ、次の彼の言葉を待つ。
耐えきれない沈黙が数秒続いて。
やっと話してくれたと思ったら、彼は驚くことを言った。
「保志みゆうちゃん、……っていうの?」
急に名前を呼ばれ、びっくりして顔を上げる。
校内の有名人である彼に名前を覚えてもらっている可能性はゼロに等しいのに、なんでわかるんだろう……?
彼がわたしの名前を紡ぐだけで、ただそれだけで素敵な名前に思えるのだから惚れた弱みだ。
よく見ると、彼はなにかを手に持ちながら、確認するそぶりをしていて。
……なんだろう?
首を傾げながらうなずくと、彼は不敵な笑みを浮かべてこちらを見た。
へえ、とでも言いたげな……なんて例えればいいんだろう、この感じ。
物色するような、品定めしているような……そんな目つきに思わず後ずさりする。
阿久間くんはわたしの目をもう一度じーっと見たあと、手に持っていたものを差し出した。
「これ、落としたでしょ」



