「……っごめんね」
恭平くんの手からわたしの傘を奪い、脇目も振らず全速力で走った。
最後に見た彼の顔は、やっぱり綺麗だった。
走りながら、自らの唇に手を当てた。
さきほどの感覚がまだ残っていて、涙が落ちる。
幸せなはずなのに、わたしは欲ばりだ。
恭平くんの気持ちが欲しいと思ってしまったの。
恭平くんの口から、“ 好き ”のふた文字が聞きたくなったの。
気持ちがないキスがこんなに苦しいだなんて知らなかった。
走っていた足を止め、ゆっくりと歩く。
傘をささずに走ったから、制服もカバンもわたしもびしょ濡れだ。
「雨が、嫌いになりそう……」
ぽつりと呟いた言葉は、だれにも拾われることなく雨とともに流されていった。