その3
麻衣



結局、私は二つの現場とも足を運んだ

学校フケてまでしてさ(笑)

何と言っても、それだけの価値があったわ

逆髪神社での駆け上がりが見れなかったのは残念だったけど、高原さんがそこをバイクで上り切ったのは信じているし、要は生であの人の駆け上がりを目撃できたことがもう飛び上がるほどうれしくてさ、私…

無論、テレビの放送もばっちり見た

微妙にドラマ感があってね、それはそれで面白かったな(苦笑)

ああ、ドキュメンタリー調のテレビもこうして手を加えるんだとか…、現場で舞台裏が覗けちゃったし、はは…

...


とにかく、この日から亜咲さんへの憧れの気持ちが、ますます強くなったのは間違いないわ

でも…、最終的にこの人に抱く、”その想い”に至るまでには、結構な過程を経る訳でね

中学生だった私は、この地の伝説の女ライダー、高原亜咲さんという人のいわば追っかけだった

で…、かなり早い時期からあの人のバイト先であることを知ったうえで、バイクショップ”ロック・モータース”へ時々足を運んでたんだ

ただ、エンジニア見習いで作業していた亜咲さんとは言葉を交わすことはなかった

石段上りのテレビ撮影の件も、店のおじさんが他のお客さんに立ち話してるとこを耳にして現場に赴いたってことでね…

だから追っかけと言っても、この時分はまだ、直接亜咲さんに接触することは意識的にも控えていたんだよね

だけど、あの駆け上がりを目にしてからは、”そろそろ”という気持ちになったわ

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「…麻衣、どうやら南玉連合の次期トップは高原さんになるみたいよ。南玉3代目の総長は確実らしい」

この子は同じ中学の同級生で、通称、”事情通子”…

私は”つー子”と呼んでる

何しろ、南玉連合や紅組なんかのことをよく知ってて、文字通りその手に関しては情報通なのよ

でさ、クラスは違うけど、私が亜咲さんに憧れてるのを知ってるんで、ちょこちょこホットなニュースを持って来てくれてるんだ

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「…それでさ、すでに紅組も高原亜咲さんの次期総長ってことは歓迎してて、なんか、水面下で新体制になったあとの方針なんかを南玉にメッセージ送ってるとか…」

「メッセージ…?」

「うん。中身はわからないけど、要は今後のお付き合い、こうして行きましょってことなのかな…」

「つー子、そのネタ元、例の友達のお姉さんが南玉の3年メンバーといとこってルートか?」

「そこもある。でも、他の友達の先輩から、喫茶店で同じようなニュアンスの会話を耳にしたってのもね。そっちの方は、紅丸さんの意向って表現だったそうだわ」

どうやら、信憑性は低くないかな…

「いつもありがとう、つー子。その”中身”、また情報入ったら頼むよ」

「了解…」

その”中身”に関しては、そう時間がたたずに私の耳に届くことになる