麻衣ロード、そのイカレた軌跡/補完エピソーズ集

その8
夏美



泣き崩れながらもテツヤ君は話を続けた

快活ないつもの姿とは程遠いその姿は、あまりに痛々しい…

「…それでも二人を振り払って、おけいを追いかけようとしたんだ。でも…、いつの間にか、ガラの悪い男達5人がオレを取り巻いてて…。手にしてる短刀が、鋭く光ってたよ。オレはその場から動けなかった。結局、怖かったんだ。それでおけいのこと、見捨てちゃったんだ!あーっ!わー」

テツヤ君は両手で床をどすどすと叩きながら、泣き叫んでいる

私は衝動的に、床にうずくまるテツヤ君の体に乗りかかるような姿勢で、彼を両手で包み込んでいた

「あなたは悪くない。悪いのは”連中”よ!つらかったでしょう…、ねっ、テツヤ君…」

テツヤ君の背中は、私の流す涙ですでに濡れていた


...



「ケイコはきっと分かってくれるわ。私たちに任せて。あなた達を別れさせるもんですか!」

この時にはもうテツヤ君と私は正面から抱き合って、お互い号泣していた

そしてそのままの態勢で、後ろにいる南部さんに向かって叫んだわ

「南部さん…、私、絶対許さない!なんて卑劣なのよ、あいつら!」

「夏美…」

南部さんは冷静だったわ

おそらく彼だって、胸の内の怒りが爆発するのを必死で抑えているはずだ…

「テツヤ、よく話してくれた。これからのことは、みんなで知恵を出し合って解決していこう。とにかく、少し休め。まずは落ちついてからだ。なあ…」

「うん…。兄貴…、ありがとうな」

気性が正反対でも、この兄弟は深くつながっている

南部さんも弟君も本当にピュアで素敵だよ