麻衣ロード、そのイカレた軌跡/補完エピソーズ集

その12
真樹子



私は前方に集中した

うん、いい感じだ…

腕時計で確認すると、7時38分だった

ここで、耳を澄ましてみた…

来てるな…

靴音が近づいていることを察知した私は、もう一度、前方を凝視した

よし、ここで行くぞ!

私は右手をまっすぐに上げた

これって…、横断歩道を渡る気分だっての…(苦笑)


...



「…真樹子、テメーだったのか、黒幕は!」

フン、お前とはじっくり”対談”したいとこだけどよ…

そうはいかねえんだよ

私、忙しくってね、この後も

お前のお相手はさ、スペシャルの御仁方を用意したんだ

たっぷり遊んでもらえ、テツヤ‥

「真樹子ー!待ちやがれー!」

「テツヤ、ダメー!」


...



私はテツヤ達と”彼女の一”他の声を背にし、全力疾走した

ああ、そうだ…

ここで久美のヤツ、チェックしとかなきゃ…

あん…?

あのバカ、ボケッとスケベ男に見とれてるわ

「おい、久美!何やってんだ?さっさと走れって。ターゲットは足早いんだぞ!急げ!」

「あ…、はい!」


...


ハハハ…、下見の甲斐があったわ

近回りで、カモシカをキャッチしたぞ!

さあ、たっぷりとなぶり回してやるからよー、横田め…


...



横田競子…

まさに、麻衣さんが言ったとおりだ

このカモシカ野郎、大した根性してる

久美を入れて12人、全員でかかってくることを覚悟してるよ、アイツ…

なんて野郎だ、この女!

みんなが言う通り、ここでヤッちまった方が面倒ないが…

まあ、この計画はヤツの最終テストも兼ねていたしな

中長期的視野で、収穫ありだったわ

よし、今日はシナリオ通りの進行といこう


...


「…真樹子先輩!まずいですよ!伝達役1からタイムアップってことです!」

ふふ…、抜群のタイミングで来たわね

今日の伝達係はマジメによく働くよ

よっぽどなんだろうな、横田に対しては

カモシカちゃんよう…

私は命の恩人かもよ、はは…


...


「…いいか、この週末にはそれぞれの代表んとこへ、集金に行くぞ。全員、今日は急いで帰れ。黒沼の二人も手配通り引き上げたはずだから…。今日のことは、絶対に他言無用だ。わかったな?」

「はい!」

連中は一斉にその場から走り去った

「久美、私らはあの白い車に乗るぞ」

「はい!」

私たちも、前方の迎えの車へと急いだ


...


「…道也、”舞台”の方はどうだった?」

「ええ、最初はやる気だった様子でしたが、結局かかっていきませんでしたよ。”光り物”見”せたんで…。大人数だったし、さすがにビビったんでしょう。ターゲットの男は、肩を下ろして一人で帰りました。例の女を追っかけた形跡もなしです。”制止役”さんたちも、”女子高生二人”を誘導した後、引きあげましたよ」

「そう。、終わったわね、どうやら…」

「でも真樹子さん、あの連中、愚連隊じゃないですよね?ひょっとして相和…」

「うるさいんだよ、あんたはいつも。余計なことはいいって言ってんだろうが!」

「あ…、失礼しました。真樹子さん…」


...


道也の運転する車の後ろで、ひと通り報告を受けた後、私は大きく深呼吸した

「久美、これで今回の”一部始終”を見届けたことになるわ」

「ああ、はい…。あの、真樹子先輩…」

「話は着いてからよ、久美。麻衣さんのところ、向かってるから。私は少し眠るわ」

私は目をつぶると、すぐにうとうとし始めた


...


「‥真樹子さん、到着しましたよ」

気が付くと、麻衣さんのアパートの前だった

「あら…、もう着いたの。ああ、道也、あなたはここでいいわ。帰りは他の人が来るから。ご苦労様」

「お疲れ様でした!そこの人も、今日はお疲れ…」

ここで私は大声で、道也の言葉を伏せた

「余分なことはいいんだって!何度言わせるのよ、全く…。アンタの耳は飾りかよ!」

「…すいません、真樹子さん。オレ、つい…」

「さあ、久美、降りるわよ」

「あっ、はい…」

「お疲れ様でしたー!」

道也は車から降りてあいさつしてるが、私は言葉を返さず、振り返りもしなかった


...


ピンポーン…!

「ああ、早かったわね。さあ、中へどうぞ…」

麻衣さんはすでにパジャマ姿だったわ

結構、フツーにかわいいし‥(苦笑)

部屋に入るとすぐ、私は今日の経緯を手早く報告した

麻衣さんは胡坐をかきながら、リラックスして聞いていたわ

フンフンと盛んに頷きながらね

「とにかく、今日はお疲れ様。今、冷たいもん持ってくるから楽にして。二人とも…」

私が足を崩し、両手を後ろの床につくと、久美もおっとり刀で足を崩してるわ

フフ…、やっぱり、まだ頭の整理がついていないみたいだわ

まあ、無理もないわよね