麻衣ロード、そのイカレた軌跡/補完エピソーズ集

その11
真樹子



こいつら…

ダメだ、こんなじゃ…

仕方ない…、強硬手段に出るぞ!


...


ガシャーン!

私は手にしていたお冷のグラスを床にたたきつけた

周りは飛び上がってるよ

あん…?

一番驚いたのは、どうやら隣の久美のようだ

イスから10センチくらい跳ねて、その直後、ひゃっくりだし

アハハハ…


...


「あのう…、お客様、どうされましたか…」

「ああ、このツレ、ちょっと勘に触る態度とったんで。マスター、弁済はちゃんとしますんで。しばらく、いいっすか?」

「ええ、そりゃ、いつもお世話になってる岩本さんですから…。まあ、なるべく穏便でお願いしますよ。他のお客さんの手前もありますんで…」

「はい、すいません…」


...


「おい!お前ら、よく聞けよ。この計画には総勢20人以上が参画するんだぞ。チンタラやってるんなら、ここで切る。今一度聞くぞ。できるのかできないのか、どっちだ!」

「…あの、やります、できます!なあ、W子…」

「はい、私もちゃんと協力しますんで。頼みます!予定通りで…」

「予定通り頼みたいのは、こっちだっての!全くよう…。”ここ”クリアできなきゃ、あのカモシカ野郎と接触できねーんだぞ!明日中にやれ!でなきゃ、お前らは排除だ。このグータラ野郎どもが、頭痛くなるわ…」


...


「…あのな、カモシカの”お友達”とは、アリバイ作りなんだよ。前日じゃ、意味ねえんだっての!そんなこともわからないのかよ、お前らは…。中央公園の日程はセット済なんだぞ!」

「はい…」

「お前らみたいなフヤケた手合い、相手にしてるヒマねえんだ、こっちは…。フーッ、今回のアリバイってのはよ、カモシカが裏とることで成立すると私は読んでるんだよ。お前ら、あのカモシカとは、そんなに親しくはなかったんだろう?。なら、不自然だと思われないような”納得”を与えなきゃ、来ねーよ、中央公園にはよ。だろ?」

「ええ、そうですね…」

「おい、久美!汗、拭いてくれ」

「あ、はい…」

全く…、さっきと逆で、私が汗まみれじゃんか…

...


「そのためのアリバイ作りなんだよ。そのお友達へ確認を取るタイムラグが必須なんだっての!そうなりゃ、決行までのタイムストック、いつがリミットなんだよ?答えな!R子…」

「…あ、明日しかありません…」

「だろーが。W子、どうだ?」

「はい…、その通りだと思います」

「んならよ‥、カモシカちゃんの中坊時代のお友達、朝から張ってなきゃな。学校どこじゃないだろうが、明日は。朝5時起きで、やれ!一日張ってろ、その絵美だか絵里だかって女を。言っとくけど、焦って不自然に接したら、そこでジエンドだぞ!いいな…」

「はい!」

「R子…、家に帰ったら、鏡の前で”練習”しとけよ。何しろ、怪しまれない演技力が必要だからな。あのカモシカ女、中学ん時は演劇部だったんだろう?お前、女優になったつもりでばかして来い!」


...


「…しかし、凄い迫力でしたね、さっきは。あの二人、店出る時なんか、顔、真っ青でしたよ」

「うん、だけどさ…、結局はモチベーションだよ。奴らにそこまでの情念がなきゃ、いくら気合入れてもダメさ。まあ、あの二人、どうやら横田には相当の恩讐みたいなもんを持ってる。そう見たよ。だから、今日のは有効なプレッシャーになったんじゃないかな…」

「すごい…、凄いですよ!先輩は…」

「いや、虚しいもんだよ、久美。所詮は卑劣な駆け引きと、威圧だしね。いつも虚しくなるよ。できれば正々堂々とやりたい…。これが正直な気持ちなんだ」

私は気が付くと、本音を久美に漏らしていた…

うーん…

やっぱり、いろいろしゃべっちゃうなあ…、この子には(苦笑)


...


私の舌はすっかり脂がのって、止まらなかった…

「あのさ…、やり口は汚くても、麻衣さんなんかは決して正面から逃げてないぞ。わかるか、久美?」

「はい!麻衣は凄すぎです。総集会のテント内では、まざまざと見せつけられましたから、麻衣の底力を…」

「そうみたいね。それと、津波祥子も常に真っ向からぶつかっていく傑物だよ。久美にも見せたかったなあ…、豪雨の中での麻衣さんと祥子の死闘を…」

「ああ、凄かったらしいですね、それ…。麻衣は翌日、顔面腫らして熱出してましたから…」

「ハハハ…、いいよな、正面でぶつかっていける人間は…。ああ、高滝馬美もどっちかって言うと、そのタイプだろうね。祥子が絶賛してたよ、凄い根性だって…」

はは…、久美のヤツ、しょげてるわ

私って意地悪だよな、ホント…


...


高滝の名を、久美にわざとぶつけてみたんだけど…

久美にとっては、絶対肯定できない存在なんだろう、高滝馬美は…

久美…、”一生”向き合っていきなさい、その名前とはね…

お前の気持ちはわかってるから

私はさ…