ゴールドシートを独占した少女/その1
ケイコ



あの青いヘルメットにこびり付いた、大量の赤い血のり…

ヘルメット内部のクッションスポンジにべっとり染み込んだ、絵の具のような血のべとつき…

物心ついた当時、私が目にしたその鮮烈な交通事故の残骸物のリアル極まる画柄は、私の脳裏から一生消え失せることはない

絶対に…


...


「ケイちゃんは不思議に思うだろうね…。2輪を運転していた自分の父親があんな悲惨な交通事故に遭ったの、幼い頃に目の当りにしてるのにね…。あの血の匂いがプンプン沸き立っていたヘルメットを、ウチの玄関であんたと一緒に、この目に刻んでるのにね…。そんでも、この年からバイクに乗るって…。何考えてんのってことになるか…」

「亜咲さん…」

亜咲さんは高校に上がったと同時に、南玉連合に加入した

南玉は当時、女性組織の姉貴分にあたる紅組、その紅組とは仇敵関係ある墨東会との3者間で、都県を超えた相互協定によって、南玉公認の独自レディースチームは結成しないと合意を交わしていたんだ

亜咲さんは一定のグループには属さず、フリーでの走りを貫いていたよ

紅組はスカウトしたかったんだろうけど、リーダー格の紅子さんはさりげなく、亜咲さんを南玉連合に誘導していたみたいだったね

それは、”子供”だった私にもはっきりと認識できたわ

...


「…なあ、ケイちゃん。”お隣さん”にはさ、それとなく伝えてくれるかな。今の協定はよう、対墨東会向けの主旨に沿ったもので、まあ張りボテに近いよ。いずれそう遠くない然るべき時期、都県境の女性勢力を引っ張る存在にならなければならない南玉連合には、いつでも力を以って行動出来得る走りの要が必要だと…」

「じゃあ、紅子さんはその率先役を亜咲さんに担って欲しいと言う立場で、紅組に入れなかったんですか?」

「ハハハ…。ビンゴだな、それ。…ケイちゃんよう、私は驚いてるんだ。私がこの東京埼玉の都県境にアメリカから戻って、わずか数年間、ちょっとけしかけただけでこれだよ!黒原さんも驚いていたが、一番驚いたのはこの私だって。すげーわ、ここの地…」

「はあ…」

「おい…!なんか他人事みたいな顔してるけど、ケイちゃん、お前も立派なこの地の猛る女の一人なんだぜ。ハハハ…」

なんだか、中学生のそん時は紅子さんの言うこと、半分くらいしか理解できていなかったかな…