奏飛さんの妻となって二日目の今日、私は言われた通りご実家へお邪魔している。

 応接間のような一室で、私の向かいではお義母様が〝財閥階級規則〟なる書物を手に話し続ける。一対一で勉強するこの状況は家庭教師さながらだ。

 彼女の背後の壁には、金縁の額に入れられた家訓が堂々と掲げられている。十五か条まであり、先ほどまでこれを教えられていたのだが、まだ三つくらいしか覚えられていない。

 今はお義母様が話す階級の規則についてメモをとっているところ。それもなかなか頭に入ってこないのは、規則がややこしいだけじゃなく……どうしても昨夜のキスが蘇ってきてしまうから。

 初夜はセックスせずに終わったとはいえ、キスだけでも私には相当刺激の強いものだった。舌を入れられるのはもちろん、丁寧に指南する奏飛さんの声や言葉がものすごく官能的だったおかげで。

『舌の力を抜いて、絡めて。……ほら、気持ちいいだろ』

 あああ、ダメダメダメ。ディープキスの快感と、彼のセクシーボイスを鮮明に思い出してしまう……!

「深春さん! ちゃんと聞いているの!?」
「は、はいっ」

 悶えたいのを堪えて俯いていた私は、お義母様のお怒りの声で我に返り、シャキッと背筋を伸ばした。