孤高の御曹司は授かり妻を絶え間なく求め愛でる【財閥御曹司シリーズ黒凪家編】

「黒凪の嫁もそれなりの振る舞いが求められる。娯楽も上流貴族に倣ったものに限定されて、様々な嗜みを学ばなければならないし、パーティーにも同行して今みたいに豪華な料理を食べたり気を遣う場面も多い」

 彼の目線が私の手前にあるお皿に落とされ、つられて私も見下ろす。もしかして、今日いろいろな高級店に連れ回されたのは、上流階級の〝普通〟を教えるためでもあったのだろうか。

 黒凪さんは再び目線を上げる。こちらを見つめる力強い瞳には、迷いは感じられない。

「これまで苦しい生活を耐えてきた深春さんなら、そんな環境でもやっていけるはずだ。君のような女性は他にいない。干上がった湖から遺跡を発見した気分だったよ」
「遺跡って」
「褒め言葉だ」

 つい茶々を入れた私に彼はそう補足するが、あまり褒められている気がしない……。

 こんなにハイスペックな彼に選ばれたのは光栄なのかもしれないけれど、なんとも言えない虚しさがかすめる。

「君もあの生活から逃げ出したかったんだろう。お互いにとって悪くない話じゃないか?」

 交渉するような調子で言われ、この結婚話がただの手段でしかないのだと実感する。黒凪さんにとっては階級を上げるための、私にとっては今の暮らしを変えるための。