上機嫌に話す彼らは、私になにも言わずに横を通り過ぎていく。〝せっかく素敵な時間を過ごしてきたんだから余韻を壊すな〟という無言の圧力をひしひしと感じるので、私も黙ってパーキングへと歩いていく。これが毎度お馴染みの光景だ。

 乗り込むのは、購入金額は約四十万の中古の軽自動車。お金を払ったのは叔父だが、今日のようなディナーや、彼らの娘のを大学に送迎する時、私を足として使うために買い与えられたものである。

 叔父にも立派な高級車があるというのに、面倒なことはすべて私に任せたいらしい。『車を買ってきてやったから免許を取れ』と言われた時は唖然としてしまった。完全に順番が逆じゃないかと。

 嫌でも運転免許を取るハメになったものの、車を使用するのは皆の送迎の時だけにしろと限られているため、結局私に自由はない。

 年季の入ったボロ車を発進させ、世田谷区にある鮫島宅へと向かう。後部座席では、普段より若干メイクの濃い叔母が満足げなため息をついている。

「美味しかったわねぇ。やっぱり月に一回は来なくちゃ」
「今度別のレストランにも行こうよ。同じ所じゃさすがに飽きてくる」

 助手席に座る二歳下の星羅(せいら)は、くるんと丸まったセミロングの毛先を弄りながら口を尖らせた。