「今日はお時間をいただき、ありがとうございました。改めて査定額を算出し直して、後日お伝えにあがります」
「はい。よろしくお願いいたします」

 三人も同様に頭を下げて皆が腰を上げた時、黒凪さんが「それと、個人的なお願いがあるのですが」と切り出した。

 首をかしげる三人をよそに、黒凪さんがこちらへ向かってくるのでどぎまぎしてしまう。彼は隠れていた私の背にそっと手を当ててリビングへ促し、一緒に三人のほうへ向き直る。

「今日一日、深春さんをお借りしてもよろしいでしょうか? 帰りは遅くならないうちに送り届けますので」

 まさかの宣言に、皆が一瞬ぽかんとした。数秒の沈黙の後、三人が驚愕の声を上げる。

「み、深春を? 借りるって……」
「なにかお手伝いすることでも? それでしたら、娘の星羅を──」
「いえ、深春さんがいいのです」

 叔母の言葉を遮り、黒凪さんの凛とした声が響く。

「彼女をデートにお誘いしました」

 鮫島家の三人と同様に、私もギョッとした。まさか、これからデートするなんて。

「デートぉ!?」
「ど、どうして……なんでよりによってそんな子を!?」

 叔母に続いて、星羅が悲鳴にも似た声で本音を漏らした。黒凪さんはまったく動じず、笑みを絶やさずに言う。

「汗を流して働く彼女の姿が、とても魅力的だと感じたからです。もっとお話をしたいと思いまして」