「ちょ、ちょっと……!?」
「話を聞いていたら、鮫島一家にひと泡吹かせてやりたくなった。君も、泣き寝入りは嫌だろ」

 ひと泡吹かせるって、一体なにをするつもり?

 黒凪さんの考えが読めなくてただあたふたする私に、彼は振り向いて不敵な笑みを浮かべてみせる。

「これから誰もが羨むほど幸せになって、見返してやれ」

 夏の太陽と、それに負けないくらいの強さを湛える彼の姿が、見開いた私の目に飛び込んできた。

 くらりとするほど眩しいのに不快ではなく、むしろ私の未来が照らされた気がして清々しい。こんな言葉をかけて、無理やりにでも連れ出してくれる人がいたなんて。

 彼の真意はわからない。けれど、私の人生が今この瞬間に確かに変わり始めた。

 一歩足を進めるごとに自分の意思を取り戻していく私を、野良猫が応援するかのごとく可愛い鳴き声を上げて見送っていた。