「苦しんでいる人を見て笑うような趣味はありませんよ」

 あなたが深春にしていたように、とはさすがに口に出さなかったが、鮫島さんは心当たりがあると言わんばかりに目を伏せた。

 コーヒーをひと口いただき、話を続ける。

「あなたについては、深春と結婚する際に少々調べさせていただきました。どうやら彼女だけでなく、ここの社員への待遇も酷かったようですね」

 残業は当たり前で有給休暇も満足に取れず、どれだけ成果を上げても評価されない、過酷な労働環境だったという。

 社員から改善を求める声が上がっていたにもかかわらず放置していたとなれば、この社長にも非があったと思わざるを得ない。

「元専務の行動は許されるものではありませんが、そうさせた原因は鮫島さんにもあるように感じました。裏切られたのは、あなたが周りの人を大切にしなかった結果です」

 冷静に、容赦のない言葉を浴びせた。鮫島さんは悔しそうに眉根を寄せるも、深く息を吐いて暗澹とした声を返す。

「もうわかっていますよ、言われなくとも。会社が倒産しそうなのも、家庭が崩壊しそうなのも、自分の傲慢さが招いたものだと……」
「地に堕ちる前に気づくべきでしたね」

 追い打ちのようなひと言を放つと、彼は力なくうなだれた。おそらく本当に十分反省しているのだろう。