孤高の御曹司は授かり妻を絶え間なく求め愛でる【財閥御曹司シリーズ黒凪家編】

「ごめん、ちょっと対応してもらってもいい?」
「はい」

 硬い表情で沢木さんに告げ、腰を上げた。

 着信音が鳴り続けるスマホを手に、エントランスとは別の方角にあるテラスへ出る。十一月も半ばに差しかかるというのに寒くないのは、今夜は気温が高めなだけでなく、私の気持ちがそれどころじゃないからかもしれない。

 意を決して応答ボタンをタップし「もしもし」と出ると、落ち着いた声が聞こえてくる。

『深春、この間は悪かった』
「え……なに、急に」
『お前はもう黒凪家の一員なんだよな。俺が信用されていないのも仕方ない』

 開口一番に謝ってきたしおらしい叔父に拍子抜けしそうになるけれど、まだ油断はできない。その考え通り、彼の声色が鋭くなる。

『だったら、交渉の仕方を変えなければと思ってな。俺が直接社長と接触できないなら、深春に頼むしかない』
「どういう意味?」
『お前が社長に資金援助を願い出るんだ。でなければ、黒凪不動産を貶める』

 穏やかじゃない発言が聞こえてきて、寒いはずなのに冷や汗が滲む。

「な……なにを言ってるの? 貶めるって……」
『まずは俺たちが家を売買する際に契約義務違反や暴利行為があったと、知り合いの記者にネット記事にしてもらおうか。今の時代、情報はあっという間に広がる。特に、これまでホワイトなイメージがついていた大企業は』