こうして、この日はダブルデート状態になり、沢木さんは歩くんと一緒にいられるだけで幸せそうだった。

　テンパりすぎていつもの冷静さを失いかけたと言っていたけれど、歩くんはむしろいつもと違う沢木さんを見られて楽しそうにしていたので結果オーライだ。

　ふたりの仲も進展してほしいな、と思いを巡らせているうちに演奏は終わりに近づいていて、最後の音も優しく奏でられた。

　部屋の隅々まで響く音の余韻が完全になくなってから、私はうっとりしつつ小さく拍手をする。

「はあ、耳が幸せ……。奏飛さんのピアノ、大好きです」
「ピアノだけ？」
「もちろん奏飛さんも」

　いたずらっぽく投げかけられた問いに素直に答えると、彼は嬉しそうな笑みをこぼした。

　そういえば歩くんに教えてもらった遊びがあったな、とふと思い出す。

「実は私も弾けるようになったんですよ。ねこふんじゃった以外も」
「本当に？　じゃあ来て」

　手招きする奏飛さんのそばに寄ると、彼の膝に座らせられた。後ろからお腹にそっと手が回された状態で、適当に黒鍵だけを弾いてみる。

　奏飛さんはすぐに気づいたらしく「そういうことか」と笑い、私の両側から鍵盤に手を下ろした。

　私の適当なメロディーに合わせて即興で曲が奏でられ、感激で目を丸くする。