今はお腹の子が安心するような、ずっと夢の中にいるかのごとく柔らかな曲調が続くものを奏でている。いつかのパーティーで披露した、怒りを体現したダイナミックな音色とは全然違う。

 奏飛さんの演奏は綺麗なだけでなく、アレンジの仕方がとてもセンスがあるのだと思う。教科書やCDのようなお手本通りではなく自分が感じるままに奏でていて、それがとても魅力的なのだと。

 なんとなく、レストランで流れていた演奏とタッチが似ている気がするのだけど、あれは歩くんだったしな……。

 あの曲、確か『献呈』というんだっけ。奏飛さんが弾いたらどんな風になるんだろう。

 綺麗な長い指が鍵盤の上を舞うのをうっとりと眺めながら考えていると、ふと二週間ほど前に行われたクラシックコンサートを思い出す。歩くんが誘ってくれたそれに、実は奏飛さんも一緒に四人で行ってきたのだ。

『俺も行く。いくら相手が弟で、沢木さんもいるとはいえ、他の男と深春を野放しにしておきたくはない』と、彼が言い張るものだから。

 歩くんは『なんで奏飛兄ちゃんとまったりしなきゃいけないんだよ』と不満げにしていて、その仕返しのような感じでこう言った。