暗い部屋に閉じこもって膝を抱えていると、誰かが扉を開いた。

『奏飛さんと家族になりたいと思ったんです。私の手を取って、新しい道へ連れ出してくれた、他の誰でもない彼と』

『同じなんかじゃないですよ。私がいるでしょう』

『私も、奏飛さんを幸せにしたい』

 ぶれない瞳で俺を見て、俺だけにその言葉を向けてくれる純真無垢な人。彼女が現れた瞬間から、四方八方を囲っていた壁が取り払われて青空が覗いた。

 幸せを与えてやるつもりが、俺が与えられていたんだ。ひとりじゃない安心感を、すべて包み込むような愛を。

 それはずっと喉から手が出るほど欲しくて、決して得られなかったもの──。


 目を開けると、暗く寂しい夢はどこかへ消えて、明るい光と共に天使のような寝顔が視界に入る。

 たまらなくほっとして、泣きたくなるほど愛しくて、まだぐっすり眠っている彼女の身体を抱き寄せた。

 君にも、お腹の子にも、俺のような思いはさせない。絶対に皆で笑って生きていけるようにするから。

「一生、そばにいてくれ……」

 強く抱きしめて呟くと、深春も寝ぼけた声を漏らして身じろぎし、当たり前のようにくっついてきた。

 もう君なしの人生は考えられない。でもこんな弱い自分を見せるのは、今みたいに君が眠っている時だけにしよう。