『ねえ、みて。おかあさんのえ、かいたんだよ』
『そう。そこに置いといて』

 幼少期の記憶の中にいる母はいつも横顔で、笑顔はない。

 どうして一緒に絵を見ることすらしてくれなかったのだろう。よくできたねって、ただひと言くれるだけでよかったのに。

『おかあさん、おなかすいた……』
『もう、うるさいわね。そこに食パンでもカップラーメンでもあるじゃない』

 違う。いくら食べたって満たされない。飢えているのは腹じゃなく、心なのだから。

 それに気づかないまま彼女は亡くなって、俺を迎えに来たのは父親だと名乗る知らない男。

『これからお前は俺たちの家族だ。この家では、奏飛が頑張れば頑張った分だけ幸せになれるぞ』

 頑張らなければ幸せになれないのか? これまでも母のためにとできる限りのことをしてきたのに。家族っていうのは温かいもののはずなのに、なぜこんなに冷たく響くのだろう。

 無条件で俺を愛してくれる人は、この世界にただのひとりでもいるのだろうか。