孤高の御曹司は授かり妻を絶え間なく求め愛でる【財閥御曹司シリーズ黒凪家編】

「深春」

 名前を呼ばれ、奏飛さんが来ていたことに気づいて驚いた。彼は少々険しい表情でこちらに歩いてきて、私の腕をぐっと掴む。

「奏飛さん?」
「帰るぞ」

 やや強引に立たせられ、有無を言わさず手を引かれる。歩くんは不服そうに「まだ話の途中なんだけどー」と口を尖らせるも、奏飛さんは聞く耳を持たない。

「まったく……。またね、深春ちゃん」
「あ、うん、また!」

 手を振る歩くんに慌ただしく挨拶を返し、なんだか様子のおかしい奏飛さんについていく。

 一階に下りて皆さんにも簡単に挨拶をし、早々と奏飛さんの愛車に乗り込んだ。

 彼は私と目を合わせようとしないし、そこはかとなくピリッとした空気を醸し出している。ご機嫌斜めな彼は、前を見据えて運転しながら口を開く。

「ずいぶん楽しそうにしていたな。歩と」

 なんだか棘のある声色で言われ、私が勝手なことをしていたから怒っているのかもしれないと思い、肩をすくめる。

「私の好きな曲をピアノで弾いてくれて……。すみません、勝手にいなくなって」

 謝るも、奏飛さんはなにも返してこない。