「第54の魔法、もとい魔法薬です。これを食べて私を好きになって下さい」

 俺が仕事に行っている間にこれも作っていたわけか。

 苦笑しながら魔法薬(チョコレート)をつまみ、口に入れる。

 うん、味は確かにチョコレートだけど。何か少し変だ。

「効き目はどうですか?」

 爛々と目を輝かせたジュリの顔が、すぐそばにあって俺は後ろ手をついた。

「……や、よく分かんない」

 ジュリは眉を垂れ、しゅんとうなだれた。失敗を嘆いているのだろうと察し、励ます気持ちで頭にポンと手を置いた。

「やっぱり。セミの抜け殻の代わりにダンゴムシを入れたのがまずかったのか」

「っおい! 何食わしてんだ!」

 ゲホ、と盛大にむせた。

 *

 キッチンの後片付けを終えてから風呂に入り、洋室に移動すると、ジュリが寝息を立てていた。クローゼットの中で座ったまま、机に突っ伏している。

 分厚い魔術書に頬をつけ、僅かによだれが垂れていた。

「ったく」

 まるで受験生を子供に持つ親みたいだ。小さく笑ってから肩に毛布を掛けてやる。風邪をひくと可哀想だ。