月下の逢瀬

「ありきたりなトコでベッド下だよなー」


「久世、ちゃんと調べろよ?」


楽しそうな会話。
あたしは愛想笑いすら浮かべられずにいた。
理玖の笑いも乾いていて。
背中しか見えない片桐先生は、一体どんな表情を浮かべているのだろう。
怖くて確認できない。


「……まあ、仮に、だけど」


理玖が口を開いた。


「もし俺が先生の言うような大切なものを持っているとしてさ。
先生はそれを本気で欲しいわけ?」


「欲しいね」


即答だった。
それに周りがまた笑いをおこしたけれど、理玖の目は全然笑ってはいなくて。
きゅ、と下唇を噛んだ。


「そっ、か。でも、あげられないね。俺のもんなんで」


理玖の瞳が鋭く先生を射た。
一瞬の沈黙。
それから、先生がひょいと肩を竦めた。


「とりあえずは、そのひつじのぬいぐるみで妥協しよう」


じゃ、始めようか、と続けた言葉を最後に聞いて、あたしは静かに教室を出ようとした。

これ以上あの空気の中にはいられない。心が潰れてしまいそうだった。