月下の逢瀬

「――やっと交代の時間だよー、疲れたねー。真緒、とりあえずここ出よ」


慌ただしく走り回っている間に、午前中が過ぎたらしい。
結衣の声に時計を見上げると、12時をとっくに過ぎていた。


「うわ。もうこんな時間だったの?」


「一般客も多いし、大盛況だよねー。今年の売上げ1位はうちのクラスかも?」


そうこう話している間にも、新しいお客がどんどん流れ込んでくる。
抜けれる内に、と急いで混んだ教室を出た。


「さ、行こう」


結衣と並んで、理玖のクラスへと向かった。
一般客も多いし、外からも活気のいい声が聞こえてくる。
結衣と窓から外の様子を見下ろしながら歩いていると、背中に声。


「お。こんなところに浴衣美人が」


「あ! 片桐せんせーだっ」


先に振り返った結衣が嬉しそうに言う。その名前に心臓が跳ね上がった。


「青山と、椎名か。いいな、浴衣」


恐る恐る先生の方を向くと、にこにことした笑顔があった。


「せんせ、何してんの?」


「見回りと言う名の見物だよ。ほら」


差し出した腕には、「保安」と書かれた腕章。