月下の逢瀬

「あはは。じゃあ、お互い無いものねだりってとこ?
あ、そうだ。今日はあたしに髪の毛いじらせてよ。いっつも一つ結びじゃん」


言うなり、結衣は自分の荷物の中からポーチを取り出した。
コームやヘアピンをいくつも取り出して机に並べる。

そしてあっという間に結い上げられた髪。それを鏡で確認しながら、思いのほか楽しんでいる自分に気付く。


「結衣、上手いんだね。すごい」


「ま、これくらいはね」


ふふ、と笑う結衣にお礼を言って、鏡の中の自分を見た。
後で、コンタクトに変えよ。休憩時間には理玖のクラスに行ってみよう。

理玖とは話せないけど、見てくれるって言ってくれたし。






『――直接、何も言ってやれなくて悪い』


昨日の夜、久しぶりに来た理玖がそっと頭を撫でてくれた。
え? と聞くと、壁に掛けられた浴衣を指差して。


『あれ、明日着るやつだろ? 声かけられないだろうけど、見たい。着たら俺の教室来い、な』


『……っ、うん!』


見てくれるんだ。

その言葉が嬉しくて、理玖の体に抱きついた。
胸元に頬をくっつけると、汗が混じった理玖の匂いがして、それだけで胸がどきどきする。