月下の逢瀬

『……今日から付き合いだしましたとか、いちいちお前らに断りいれなくちゃなんねーの?』


責められるような言葉に、たどたどしく答えた。
それに彼女たちが何か言う前に、理玖の低い声。

怒鳴るよりも、そのひやりとした声音が怖かった。


『理玖く……』


『わざわざ言う必要ねーだろ。勝手な推測で人を責めるなんて最低だな』


振り返り、渡辺さんを見すえた目は冷え冷えとしていた。


『日薙、お前にも言わなかったのは悪かった。
でも、言いふらしてまわるような話でもないと思ったから』


『お、おう。まあ、オレは別に構わねーよ、うん』


いつもとは違う理玖の様子に、日薙くんはたじろいだように頷いた。


『じゃ、行こう。玲奈』


ぽんぽん、と玲奈さんの肩を叩き、理玖は帰って行った。
その姿が階段の下に消えていくのを見て、日薙くんが大きな溜め息を吐いた。


『……すっげー怖かったぁ。あんなマジな顔、初めてみたぜ、オレ』


はは、と力無く笑って、渡辺さんに近付いた。


『渡辺ー、理玖はもう諦めたほうがいいよ』