月下の逢瀬

『日薙、俺……』


『夏休み前からっ、二人は付き合ってた！』


躊躇いがちな理玖の言葉を遮るようにして叫んだのは、あたしだった。

教室の隅に静かにいたあたしが、急に声を荒げたせいか、それともその内容か、みんなの視線があたしに集まった。


『れ、玲奈さんが怪我したのは、夏休みなんでしょ？
あたし、夏休み前から玲奈さんがよく理玖の家に遊びに来てたの知ってるよ！』


緊張から、声が震えた。
涙までも滲んで、あたしは考えなしに口を開いたことを後悔して俯いた。


『椎名、それ本当か？』


日薙くんが困ったように聞いて、あたしは返事の代わりにぶんぶんと頷いた。


『まあ、理玖が付き合ってもない女を家に入れたりするわけない、か』


日薙くんは信じてくれたのか、納得したように言って。
あたしがほっとした瞬間。


『椎名さん、本っ当に理玖くんの家に行ってる玲奈を見たの？』


渡辺さんを囲うように集まった女の子たちが鋭く言った。


『見間違いでしたじゃ困るんだよっ？』


『ほ、本当に玲奈さん、だよ。あたし、理玖のお母さんからも、聞いたもん』