月下の逢瀬

噂が二人の耳に入るのは、あっという間のことだった。
それでも二人は何も知らないかのように振る舞っていたけれど、直接投げかけられた言葉には、無反応ではなかった。


『くだらねえ事言ってんじゃねえっ！！』


ざわざわした放課後の教室にがんっと机を蹴る大きな音。
理玖の激しい怒りをぶつけられたのは、渡辺さんだった。


『怪我をさせた責任だとかで付き合えだなんて、理玖くんが可哀想！』


放課後の教室。並んで帰ろうとしていた二人の背中に、渡辺さんはそう言ったのだ。

瞬時に激高した理玖は、教室を静まり返すくらいの怒鳴り声をあげた。


『俺はそんな事で付き合ったりしねーよ。バカな事をこそこそ言うんじゃねえよ！』


鋭い視線に射抜かれて、渡辺さんは顔をくしゃくしゃにして俯いた。
肩は今にも泣き出しそうに震えていた。

しん、とした室内は一気に緊張感を持ち、誰もが口をつぐんだ。


『二度とバカなこと言うな！』


吐き捨てるようなセリフ。
理玖はふいっと背中を向けて、教室を出ようとした。

その背中を、玲奈さんが慌てて追う。